在日コリアン青年連合(KEY)

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​Interview

身近な在日コリアン

 のライフヒストリー

◆師匠との出会い

 

ただ、先生がすごいよくて。尼崎の人だったんですけど、喜納(きな)先生っていう沖縄の人で。この先生に巡り会えたのが大きいですね。喜納先生も別にマッサージ師になりたくてなったわけではなくて、沖縄がちょうど本土復帰のときに、出稼ぎで尼崎に来てて。溶接工として来てて、その溶接の最中に目を焼いてしまって。それで、目が見えないからマッサージ師になって。むちゃくちゃスパルタでしたけどね、信じられないくらいに。

――――その人に初めて教えてもらったんですね。どんな仕事なんですか?

パチンコ屋のお客さん相手にするんですが、今やってもこのビジネスは流行らないと思うんです。パチンコ屋でマッサージって、一見パチンコって肩こりそうやから需要ありそうですけど、でもみんなお金儲けに来てるわけやから、お金使いには来ないんじゃないかって。パチンコで勝って、その景品としてはありかもしれないけど、なんかズレてるんじゃないかと。そのあと、そっこーで無くなりましたね。

―――その後、別の店に行ったわけですね。先生についていったんですか?

いえ、その喜納先生が教えてくれたのは二週間くらいです。冷たいバケツに水と氷と塩入れて、そこに手をつけて、(先生の体を)「押しなさい」と。手つけて、押して、手つけて、押しての繰り返しを8時間。指が痛くなったら氷水につけて、また押しての繰り返し。とくにどこを押せとかは教えてくれなかったんですけど、とにかく体を張って教えてくれてたのは、ありがたいなと。ある日、「鄭くん、これできるかね」と、大皿に手を置いてそのまま持ち上げたんです。ここ(皿と手のあいだ)が真空になるんですよ。手が吸盤の役割をしてるんですよ。それまでは「なんやねん、このじじい」と思ってたんですけど、「後ろから殴ったろうかなって何回も思ったんですけど」(笑)、なんか、感服しましたね。負けたと。つまり、手のひらの筋肉の分厚さなどが比べ物にならないんですよ。圧倒的やったんですよね。盲目の人が発する凄み、みたいなものもあって。目が見えないゆえの不思議な力みたいな感じもして。その先生が仕事をしている姿を見ているうちに、僕もああなりたいと思ったりして、仕事にはまっていきました。

――その先生に雇ってもらってたわけではないんですか?

違いますね、別にオーナーがいて、マッサージ部を新しくつくったんです。その部長のお父さんがマッサージ師で。その人からの頼みで、喜納先生が教えてくれることになりました。喜納先生は元々、誰も教える気はなかったみたいなんですが、そういう経緯で僕が幸いにも弟子になれました。

―社員として雇われていたんでしょうか?

いいえ、雇用形態はほぼアルバイトで、社会保険などはなかったですね。かなりブラックでした(笑)。僕の人生で二つ大きなこととして、一つは受験していないこと。もう一つは就活していないことですね。この二つは、僕自身がのびのび物事を考えたりとか、いろんなことを行動するときに制約になってないと思うんです。あんまりよくわかってないから、すぐに飛び込めちゃうというか。いちいち考えてたら、無理です。それで喜納先生には二週間くらい教えてもらって、パチンコ屋で働いてたのは3か月くらいです。

 

◆「兄ちゃん、肩こりってなんや?」​
 
―――その後はどうなりますか?

その後は、加古川の温泉街の健康ひろばで働きました。従業員全員、不健康でしたけど。不健康ひろばでしたね(笑)。朝番から夜番など、38時間勤務とか普通にありましたから。その健康ひろばで経験を積みましたが、あるとき、そこでお客さんに「兄ちゃん、肩こりってなんや?」って聞かれて、答えられなかったんです。それまでは、なんとなく経験値みたいなんでやれて来てたんですけど、ちゃんと解剖学的なことは勉強したことがなかったんですね。

 

それで勉強せんとあかんなと。今は、筋緊張によって血行が不良になって、そこに老廃物が溜まって、肩こりとして症状が現れますって言えますけど。当時はまったく答えられなかったんです。これはやばい!となって、22歳くらいで専門学校に行ったんです。三宮のナショナル整体学院というところに。

――――みなさん、働いた経験ある人なんですか?

そこは、働いた経験を持って入る人って、ほぼいなかったんですよ。みんな未経験。だからそこでは「とんでもないやつが入って来た」ってなって。「なんでできるのに、わざわざ入って来たん?」って言われて。僕は、解剖学的な専門知識が欲しかったので。講義と実技の両方の授業でした。仕事はやめて、それまで貯めた貯金で通いました。半年コースやったんですけど、3か月くらいで終わりました。そのあと、学校が直営店を出すことになり、そこの店長になったんです。経験あるし、そのまま働いてくれってなって。喜納先生の基礎が生きてたからですね。

 

◆23歳店長の挫折
 
――三か月で資格とって、いきなり店長ですか。どこにあったんですか?

三宮の北野坂です。今は不動産屋になってます。これが23歳くらいですね。そこで、思いっきり赤字だすんですよ。もう会社が立ち直れないくらいに(笑)。初の直営店で、テレビの取材も来てたんですよ。整体とエステの融合で、今までなかったんですよ。整体師ってそれまで、オタクで根暗みたいなイメージあったんですけど、整体師という体のプロフェッショナルがエステみたいなことをやる、というのが画期的だというかんじで。テレビの取材来て、内装も一千万くらいかけて。従業員は多くて7人くらいですね。そんなところ、23歳のやつに店長できるわけない(笑)。僕は普通に街の整体屋さんをしたかったんですが。

――ぜんぜんお客さん来ないんですか?

お客さん来ないですし、広告費、人件費がかさみますし、悪い噂から始まってますので。大した実務経験も無い店長が取り仕切って、なおかつ学校卒業したてのほぼ素人同然の、学生から毛が生えたような人がやるわけですから。そこで三年くらい続けました。仕事ってなんやろって考え始めたのもその辺りですかね。

 

次に勤務した二号店は住吉にあって、そこでは僕は副店長で入って降格させられるんですね。別の人が店長で。そこで、どっか悔しかったのかなあ、僕がやった方がええやんって思いもあったのかなあ。給料はいらないから、仕事させてくださいみたいなことを言うようになってたんですよ、その頃。なんか給料欲しいから働くというより、働くために働くっていうところを自分の中で一度くぐってみたかったですね。

 

普通、働くってなんのためかって言ったら、生活のためじゃないですか。生活のためにはお金が必要じゃないですか。結局、お金が必要だから、働く。そういうのを超えてみたかったんですね。何か、自分の中で違うものが得られるんじゃないかって思ったんですよね。要は、生産とか消費とか、損得や利益を超えたところで、純粋なところで仕事をしてみたいっていう欲求なんかもしれないですけど。

 

 

◆量よりも質を求めて・・
 
――利益を上げることを考える経営よりも、施術の方に集中したかった?

そうですね、言い換えれば、純粋に整体っていう仕事を研ぎ澄ましたいっていう思いもありましたね。量よりも質を求め始めたのもこのあたりかな。けっきょく、それがよかったんですよ。信じられないくらい今度は利益を上げたんですよ、住吉の店舗で。未だに僕はあれほど流行ってるお店みたことないですね。外に待つための椅子があったんですよ。行列ができるマッサージ屋さんって見たことないですよね。そういうものをつくって。月の売り上げが平均で300、400万あって、単純に計算したら一年間に3600万以上。

―――――何をしてそうなったんですか?

たぶん仕事の考え方が変わったのもありますし、スタッフが仕事を楽しんだんですね。そしたら、患者さんもこの人たちは利益優先じゃなくて私たちの体のことを考えてくれてるって伝わって、また来てくれる。そういう好循環ができたんですね。あともう一つは、給与体系を一気に変えたんですよ。完全歩合制にしたんです。働いたら働い分だけ還元しますよと。一時期、僕よりも給料高い女の子がおって、最高月60万くらい稼いでましたね。

給与のシステムとしては、例えばマッサージ代5000円のうち2500円が整体師の取り分で、指名料1000円ならそれが取り分に上乗せされるかたちです。それまでは一律おなじ給料でした。そのときは20数万円という店の最低賃金を決めていたんですが、歩合制にしてからはそれも取っ払いました。これだと、ほぼ稼げない人が出てくる可能性もあるんですが、実際はそれが無かったんですね。その自信がありました。それから、歩合制にした方が、絶対給料上がるからって言って、納得してもらいました。

大きな会社とかでも、一人ひとりに責任を持たせるようにしますよね。例えば、ユニクロとかでも個人の店舗と思って物事を考えるように、一人ひとりが雇われてるというよりも経営者の感覚を持つように人材を育成するようにしてると思うんですけど。たぶん、そういうのに近かったんじゃないかなと思うんですよ。みんなが責任感持ってやったら、その場って盛り上がるんですよね。雇われてるって感覚で行ったら、流行っても流行らなくても関係ないですよね。でもそれが自分の給料に直結したら、上がれば楽しいですし。そんなことを経験したのが25歳くらい。でも、それも空しいものに変わるんです。

―――――うまくいかなくなるんですか?

うまくいかないわけじゃないんです。でも、それが人間の仕事かっていったら、そうじゃないなって思うんですよね。お金を稼いだからって幸せになれるかって言ったら、そうじゃないなって気が付いたのはこの仕事したときなんです。終わりがないんですよ。利益を上げることに。経済活動することだけが人間の仕事じゃない。もっと、好きな人と一緒の時間を過ごすとか。人を使うことって労力が必要です、自分が率先して動かないといけないから。そうなるとプライベートがおろそかになりがちです。ただお金を生み出そうと思ったら生み出せるなっていうかんじで、そのあたりはこのときに満足してしまったかんじがあります。あと、ほんとにお金を持ってる人たちは、こういうお金の稼ぎ方をしていないというのも知りました。不動産とか株式とか。