
What's KEY
団体名称変更に際する発表文(2003.3.30)
私たち在日韓国青年連合(韓青連)はこの度、団体名称を『在日コリアン青年連合』へと改称することにしました。
91年2月に結成した韓青連は、在日コリアンの権利向上、韓国社会の民主的発展と朝鮮半島の平和統一を基本目的として、各地域に居住する在日コリアン青年が主体となって運営する組織としてその活動を開始しました。私たちは「在日に根ざし、祖国に参加し、世界に連なる在日コリアン青年像」を提起する中で、時代の変化にたえず注目しながら、前述の課題に加えて、戦後補償の実現、日本とアジア間の歴史認識の共有、在日コリアン社会内の和合推進、北朝鮮人道支援、日本の多文化共生社会の実現などの諸課題にも積極的に取り組んできました。そして国境を越えた人々の直接交流を果敢に追求し、日本と韓国の青年世代の協力と連帯の強化、北朝鮮の青年との直接交流を含めた南北の民間レベルの交流と和解のための活動にも取り組んできました。
私たちはこれまでの活動を通じて、各地域に集う多くの在日コリアン青年が様々な学びを通じて、自己のルーツを肯定しながら豊かな人間として生きることを目指してきました。そこで培った青年のパワーを発揮し、日本と朝鮮半島の人々の相互理解と信頼を深める架橋として、また在日コリアン社会、朝鮮半島と日本、そしてアジアや世界の人権と平和に貢献することを自らの使命としてきました。その思いは今も変わりません。さらに多様な人々同士の共生が至上の命題となっている現在の世界においては、様々な境界を経験する中で自尊と平等を求めてきた在日コリアンだからこそ発揮できるオリジナルな役割がいっそう求められていると考えます。私たちはその期待に応えられるような具体的な成果を結実するために、自らの発想を磨き旺盛な行動力を持って活動していくつもりです。
今回改称するに至った理由は、私たちが培ってきた団体の2つの性格="組織アイデンティティ"をより鮮明に表したいからです。
一つは、コリア総体を視野に入れ、また多様な在日コリアン青年を全て見据えて、誰もが参加し貢献できる集団作りを目指していることです。とくに朝鮮半島を取り巻く情勢が著しく変化している中で、在日コリアン社会も今非常に混沌とした状況にあり、未来に対する希望を見失いそうになっている人もいるのではと危惧します。そうした今こそ、在日コリアンが、「南」や「北」であるとか、国籍や所属の違いから生まれる様々な分断思考を超えて、海外コリアン社会も含めたコリア総体を舞台に考え行動することが求められていると私たちは考えます。
そしてもう一つの性格は、私たちが自立した市民で構成する「在日コリアンのNGO」として、市民の立場からの公益を目指した社会貢献を活発に展開するということです。とくに在日コリアンは朝鮮半島や日本をはじめとした国家の存在から多大な影響を受けてきました。国家と直結するのではなく、また国家の存在から逃避するのでもなく、自立した市民集団・NGOとして平和や人権といった普遍的価値を追求する活動こそが、まさに今の混沌とした時代を切り開くことができると考えています。
私たちは新たな名称に込めた決意を持ってこれからさらに進んでいく所存です。今回の名称変更に関して、多くの方々の御理解をお願いするとともに、今後も変わらぬ御声援・御支援をお願い致します。
2003年3月30日
在日コリアン青年連合
決定した新名称は以下の通りです。
正式名称 日本語表記:在日コリアン青年連合
英文表記 :Organization of United Korean Youth in Japan
略称 KEY(ケー・イー・ワイ)
KEYは、「KorEan Youth」の大文字を取って作った略称です。 私たちはこの略称に、誰もが「Key Person(キー・パーソン)」である在日コリアン青年のための「Key Station(キー・ステーション)」になりたいという思いを込めています。
KEY 20周年宣言
~次代の在日コリアン社会創造に向けて~ (2011.7.17)
1991年2月3日、在日韓国青年連合は「韓国の民主化と祖国の自主的平和統一」「在日同胞の民族的諸権利の擁護」「世界の平和と進歩への貢献」という三大基本運動目標を掲げ、各地域に居住する在日コリアン青年自身が主体となって運営する在日コリアン青年大衆運動組織としてその活動を開始し、本年をもって20周年を迎えた。この20年の歩みは、“事実の発展が認識の深化を上回る”激動の時代にあって、時代が圧倒的規模とスピードで激変していくということのみならず、ものごとを見極める基軸そのものが揺らぐ混迷・転換期の中で、その変化を見極め、呼応し、変革を勝ち取るための不断の努力の歴史であったともいえる。
世界を二分し、政治や人々の暮らし、個人の人生さえも左右する重い現実であった冷戦構造の崩壊から90年代は幕開け、現在ではグローバル化という非可逆的なダイナミクスが進行する。その過程においては、従来自明のものとされた“一民族一国家”という枠組み、国境線の溶解を生み出し、それぞれの国家は自国内部に多様な民族を抱え込むようになった。流動化する社会の中で、地球規模の問題が噴出したのもこの20年の特徴であり、世界不況や格差拡大、テロ、地球環境の悪化など、脅威のボーダーレス化が同時進行し、それに伴い新たなナショナリズム台頭の時代に突入している。90年代後半には、米国の一極支配が指摘されたが、イラク戦争、金融バブル崩壊などを経てそのパワーは相対化され、今ではマルティラテラルな国際関係の多極化体制への転換が指摘されている。一方で21世紀という時代は市民の時代の定着期とも言え、NGO/NPOの活躍が、世界的にもそして日本においても直面する課題解決に向けた不可欠のプレーヤーとして浮上した。
この20年という時間軸の中で、東アジア地域では韓ソ・韓中国交樹立、朝米・朝日関係の正常化に向けた対話、六者会談の開催など画期的な変化が生み出されていった。朝鮮半島においては1991年の南北基本合意書、非核化共同宣言の締結以降、紆余曲折を経ながらも2000年には分断史上初の歴史的な首脳会談が実現し、2007年に再度南北の両首脳が直接に会談し、握手を交わした。朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の核開発問題とその取り扱いを巡って、一触即発の事態も想定されるなど緊張状態が断続的に生まれるものの、それぞれの共同宣言文にも明言される通り、大局的には南北関係が冷戦体制の解体期へと移行していく趨勢にある。朝鮮半島は対立から和解・統一の時代へと確実に変化しつつあり、東アジアにおける冷戦構造の解体を促進する主体として再登場してきている。韓国社会においては1987年6月民衆抗争以降、制度的な民主主義が定着する兆しを見せ、1993年には文民政権が誕生した。1998年には韓国史上初めて平和的政権交代により金大中政権が発足、彼の政策はその後の盧武鉉政権に継承され、朝鮮半島のみならず、東北アジアの地域協力というより幅広い枠組みで、平和を基盤とした地域統合に主導的な役割を発揮するに至った。李明博政権の逆風下、予断を許さない状況ではあるものの、執権政党に関わらず南北関係進展の基調は維持されると考えられる。
一方の日本社会においては、90年代前半より噴出した戦争被害者の声に応え得る加害責任の認定及び戦後補償の実現について、未だ満足な結果を得られていない。2002年には日本外交が主導性を発揮し朝日首脳会談を実現させるが、北朝鮮による拉致事件の認定によって没交渉に陥った。その中で日本社会には超高齢化格差社会など社会不安の進行と並行して、急速に草の根のナショナリズムと国家主義が台頭することとなった。この間、多民族社会化が進行し、新渡日の外国人が急増していることも特徴としてあげられるが、日本政府の外国人政策は管理体制強化の論理を基調としたもので、当事者の権利主体としての位置づけが極めて不十分なものとなっており、アジアとの関係修復とも連動した歴史認識を伴う多民族・多文化共生社会の実現に向けた努力が求められている。
在日コリアン社会もまた、この間大きな転換点を迎えている。国際結婚やそれに伴う日本国籍選択者の増大、日本国籍取得者も横ばいに推移し続ける中で、日本籍コリアンやダブルの存在など、国籍ベースの統計に表れない在日コリアンが増加している。さらに韓国・朝鮮籍保持者におけるニューカマーコリアンの比率も向上し、その存在感も非常に大きくなってきている。世代交代の進行と定住化、一定の生活権の獲得により、生き方の自由度・選択肢の幅を持つに至った在日コリアンのもつライフスタイルは、さまざまな要素をもつ複合的なものとなった。これまでの様々な軋轢を生み出す要因ともなってきた自明の「民族=国家」観は相対化されつつあり、今後在日コリアンが自らを国籍などひとつの指標でまとまった民族として語ることは難しい。しかしながらこのことは、自らの来歴に根ざしながらも既存の国家の境界線を跨ぎつつ、開かれた市民としての人間の新しい生き方=オルタナティブを提示する存在としての可能性や価値を感じさせるものである。さらには、在日コリアンが先行マイノリティとしての存在である自己を自覚的に引き受け、新たな渡日者である定住外国人の問題にも接近していくことを通じて、そのマイノリティ内部のヒエラルキーを乗り越えていくことも大きな役割の一つであるといえる。
この間、“冷戦”“国家”“分断”などに規定され続けてきた在日コリアンを取り巻く時代状況は大きく変化してきた。その中で私たちは自らの志向性を「在日に根ざし、祖国に参加し、世界に連なる」在日コリアン青年像として表現した。そして共通課題解決のための在日コリアン団体とのネットワーク作りに加え、韓国及び海外コリアンとのネットワーク、日本の市民団体・個人との連携を積極的に模索してきた。さらに時代の変化に積極的に対応しながら“自立性”“公益”を掲げる在日コリアン“市民団体”“NGO”としての性格を強化してきた。中でも東アジア情勢、とくに北朝鮮をめぐる情勢の大変動の中で、組織アイデンティティをより鮮明にするために団体名称を変更するという大胆なチャレンジも行なってきたのである。
私たちは結成以来、在日コリアン青年ひとりひとりと正面から向き合い、ともすると枯渇しやすい個々人のエネルギーを補充し、エンパワメントしながら“学びを通じた自己変革”“自己変革を通じた社会変革”を地道に実践し続けてきた。
その結果、関心領域・実践領域をともに拡大させながら、創意工夫溢れる運動展開の力量を備えつつ、日本全国に6ヶ所の地域拠点を有し、400名規模の会員が集う組織へと成長することができた。
このような20年間の活動実績を担保に、私たちは今後も時代に能動的に対応した在日コリアン青年団体として、以下の課題を実践しつつ、組織としての存在感を一層発揮しながら社会、人への貢献を不断に続けていくことをここに宣言する。
1.幅広い層の在日コリアン青年の参加をもって、参加者自身の自己実現・自己表現の場としての機能を強化しつつ、学びを土台とした他者の人権伸長・平和の実現に関心を持つコリアン・コミュニティを形成する
韓青連の結成以来、私たちは自らの活動を体現する直接的なフィールドである地域拠点を中心にして、在日コリアン青年が民族的・人間的に成長していくための活動を繰り広げ、多くの成果を生み出してきた。激変ともいえるこの20年という時代情勢の変化の過程で、私たちが対象とする在日コリアン自身の多様化は進展し、各々がそれぞれの感性に基づいて思うままに考え、行動できる領域を拡大してきた。そして、法的地位や経済状況などハード面における生活環境の改善は、個々人の思考の中で民族という概念を相対化させ、個の自立を際立たせてきたといえる。
しかし、多様性という概念は、バラバラのものがバラバラに存在するということではなく、どこかで切り結ばれているはずのものである。その根本的なファクターとしてのルーツ=国籍や血統に関わらず、自らの来歴を自覚し自分自身を確認することの重要性は、今尚色褪せることなく存在し続けている。私たちは、この100年の歴史性に立脚した時代認識を持ちながら、学びを土台にして自分たちを取り巻く社会や政治に対する関心を常に育み、行動するという生き方を魅力をもって提示し続けていかなければならない。在日コリアン青年ならば誰もが参加できるという間口の広さを保障しながら、加えて、格差社会、競争社会という現実に投げ出されている在日コリアンひとりひとりと徹底して向き合いつつ、豊かな生き方をともに探していくことのできるコミュニティを運営する。
そのための教育の場としての機能を一層強化していくことが求められている。私たちが出会うひとりひとりの在日コリアンがエンパワメントされ、社会に輩出されていくことの価値を不断に追及しながら、地域活動を中心とした取組みを今後も継続していく。
2.東アジア市民ネットワークを拡大・強化しながら、朝鮮半島の平和統一及び東アジア地域の平和構築に向けて積極的に貢献する
この間、東アジア共同体という平和や福祉、正義など、人間の基本的な価値観を共有し、国家という単位、境界線を超えて行動する主体の重要性が強調されてきている。しかしながら現実には、朝鮮半島の南北分断状況や朝米・朝日関係の停滞状況、核問題などの取り扱いを巡って、その枠組み自体が北朝鮮を排除しながら包囲する体制を築くという機能や目的を持ってきている。さらにはグローバリゼーションの潮流の中で、排他的なナショナリズムが経済不況の不安感と結びつく形で各国国民の間で増幅され、深刻な葛藤を生み出してもいる。植民地支配を巡る歴史認識の対立が克服されず、冷戦体制を未だに内包するこの東アジア地域における共同体の形成は、そう容易くはない。しかしながらEUをはじめとする地域統合の流れはアジアへも確実に広がり、まさに現在、政治的課題として浮上している。その実現のためには、北朝鮮と周辺各国との全方位的な関係改善が非常に重要な要素としてあげられ、また単純な経済統合ではなく、平和体制を構築するものとして、朝鮮半島の統一と、周辺諸国との交流・協力を促進し得る、東アジア市民というアイデンティティを持った市民同士のネットワーク形成が不可欠のものとなっている。
そのような中で、常に国家という枠組みの外に置かれ続けてきた在日コリアンは、多元的且つ幅広い視野を持ちながら、国境という厚い壁を乗り越えて社会の命運に深くかかわることができる存在だといえる。私たちは、これまで培ってきた韓日市民交流事業の経験を機軸に、協働すべきイシューを明確にしながら、双方社会にとって共通の課題に積極的に対応していく。さらに、世界に散在する豊かな多様性をもつ海外コリアンのネットワークを活用し、南北コリアの緊張緩和、統一の過程に積極的に貢献しながら、東アジア共同体実現への触媒としての役割を積極的に果たしていく。
3.マイノリティ当事者、外国籍者の人権保障を求める市民・NGOとの横のつながりを拡大していきながら、歴史認識を伴う多民族・多文化共生社会の実現に向けて実践を積み重ね、あらゆる人々の人権が尊重される社会を目指す
現在、日本社会に居住する外国人は210万人を越え、今後も増加傾向は続いていくことが予想される。日本政府においても用語としての「多文化共生」を主張するものの、その内実はあくまでも日本社会の活力維持という観点からの考えであり、「人権」に関する言及や法整備は存在せず、権利主体としての外国人の位置づけは、極めて不十分なものと判断せざるを得ない。さらに公人による度重なる差別発言や、入店・入居差別などの差別事件は後をたたず、「テロ・治安対策」という名のもと、外国人の管理・監視は益々強まる傾向にある。私たち在日コリアンを中心とする旧植民地出身者もその来歴は直視されず、常に管理・監視の対象とされてきた。他者との「共生」や「対話」は、徹底した過去の克服と和解を抜きにして実現できるものではない。
このような状況下にあって、歴史意識に根ざされた多民族・多文化共生理念を掲げつつ、多様な形態で地域社会に貢献する当事者NGOの役割と存在感が、より注目される時代へと変貌しつつある。
私たちもコリアというルーツを根底に据え、その歴史性に根ざしながらも、開かれた市民としての役割を日本社会において発揮していくことが求められている。専門性を担保した市民・NGOとの連携を密にし、マイノリティ同士の分断状況を乗り越えながら、あらゆるひとびとの人権が尊重され、差別が許されない、真の多民族多文化共生社会の実現に向けての取り組みを継続して行っていく。
4.共通課題に対応しうるコリアン・ネットワークを強化し協働することで、今後の豊かな在日コリアン社会の創造に寄与する
日本国籍取得者やダブルという存在の急激な増加、世代交代のさらなる進行による世代間意識のギャップや、生活習慣、アイデンティティの多様化など、在日コリアンの量的拡大・質的多様化が進行している。同時に市民社会の発展は国家や民族を相対化し、既成民族団体以外の在日コリアンNGO、市民団体を増加させてきた。
そのような中で私たちは、豊かなコリアン・コミュニティ形成にとって必要な社会資源を創造するためにも、当事者であるコリアン同士の連携と協力関係が不可欠であると考える。既成民族団体はもとより、幅広い在日コリアン団体・個人との連携・協力関係を積極的に模索していくとともに、日本社会において増加しているニューカマーコリアンとのネットワークを形成することも、非常に重要な課題であるといえる。さらに中国、ロシア、米国を中心に離散した海外コリアンはグローバル化が進行する21世紀にあって、ますます重要な存在として注目されている。ホスト社会内で同様の課題や問題意識を抱える者同士の出会いと協働など、国境を越えたネットワークの強化も追及しなければならない。
在日コリアンの量的拡大・質的多様化の進行に伴い、既存の枠組みではとらえきれなくなっているコリアンとの関係を丁寧に創っていき、時代状況の変化に対応しながら重層的なコリアン・ネットワークを形成していくことを目指す。
私たちは、20年の活動を通じて数多くの在日コリアン青年と出会い、友情を育みながら関係を深めてきた。在日コリアンの民族意識の相対化やコミュニティの基盤解体が語られる中、私たちは地域組織における地道な活動を通じて、有益なコミュニティを作り上げてきた。そして、様々な社会事業への参与を展開し、青年の積極的な社会参与と自己実現の場を提供し続けてきた。20年の活動成果を基にして、私たちは今後も「自尊感情が溢れ、人間への暖かな視線をもった青年の育成」、「人権、平和に関心を持ち影響を発揮し得るコリアン・コミュニティの形成」、「歴史認識を伴った多民族多文化共生社会の実現」、「日本と朝鮮半島間の過去の克服と、南北和解を伴った東アジアの平和確立への貢献」を目標として掲げ、地域に集う青年ひとりひとりの可能性に依拠しながら、積極果敢に各種事業を展開していく。
2011年7月17日
在日コリアン青年連合(KEY)