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ヘイトクライム・ヘイトスピーチ

 

ヘイトスピーチ・ヘイトクライムの定義・解説


 ヘイトスピーチ・ヘイトクライムの定義・解説は論者によって幅があり、その差異が争点ともなっている。そのため、以下では各論者による説を列挙するかたちで紹介する。 

前田朗氏による解説

 ヘイトクライムとは(人種・民族・性・障がいなど)差別的動機による暴力・犯罪のことである。差別の中でも特に犯罪に焦点を当てた概念だ。ヘイトクライムは人種差別撤廃条約の第4条が法的規制を求めている。憎悪犯罪等と翻訳される。 

締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及 び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は 行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。 
(人種差別撤廃条約第4条)


 ヘイトスピーチ(差別扇動)はヘイトクライムの一種である。 

 ヘイト・スピーチは単なる言論ではなく、殺人をはじめとする予告であり、教唆・扇動であり、ヘイト・クライム(憎悪犯罪)です。暴力行為が伴う場合もあれば、伴わない場合もありますが、いずれにしても国際的には、人種・民族差別、迫害、人道に対する罪として理解されています。 
 (前田朗『なぜ、いまヘイト・スピーチなのか ―差別、暴力、脅迫、迫害―』p4)

 

 前田朗氏によると、ヘイトクライムの類型は以下の通りである。 

1)差別思想の流布・扇動 
 人種差別撤廃条約第4条(a)項「人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること」。ジェノサイド条約なども「ジェノサイドの直接かつ公然の教唆」を独立の犯罪と規定。 

2)人種差別的動機による暴力行為、人種差別発言を伴う暴力行為 
 これは1)に含まれる。単なる暴行罪ではない。 

3)民衆煽動罪(「アウシュビッツの嘘」罪) 
 ドイツでは、60年に当時の反ユダヤ運動やネオナチ運動に対処するために制定された。94年、東西ドイツ統一後、激しい外国人排斥運動が行われたことへの反応として改正が行われ、その際、歴史修正主義発言を処罰する規定が新たに導入された。刑法130条1項における「憎悪を挑発」するとは、単なる拒絶や軽蔑ではなく、敵意という意味での憎悪を生みだしまたは高める目的をもって、他人の感覚や感情更に理性に持続的に影響を与えること。直接行動を促すものではないが、過剰な行動の温床となる精神的雰囲気を醸成することを意味する。 

4)人種差別団体規制 
 人種差別撤廃条約第4条の(b)項「人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。 

*集団侮辱(ドイツ) 
 集団的特徴の下にある多くの人々に対する侮辱を意味し、人的共同体に対する侮辱とは区別される。その表現の侮辱的効果が、集団構成員各人の個人的名誉に波及する限りでのみ処罰の対象となる。要件①侮辱的表現が集団のすべての構成員に共通するメルクマールであること。②名指しされた集団が区別可能で、見渡すことの出来る比較的小規模な集団であること。③大規模な集団であっても、例外的に「表現が民族的・人種的・身体的・精神的メルクマールと結びついており、そこから人的集団全体の劣等性およびそのことによって同時に、その集団のあらゆる個々の構成員の劣等性が導きだされる場合」には、侮辱の個人への波及が肯定されることがありうる。

 

 

 

冨増四季氏による解説

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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一覧表をクリックすると、冨増四季氏のブログへリンクします。

 ヘイトスピーチは単なる言論ではなく、差別煽動を引き起こし、暴力としてのヘイトクライムを引き起こす。それゆえこの二つはともに、人種差別撤廃条約第4条によって、犯罪として定義されている。このような定義に基づいた「ヘイトスピーチ規制」論が盛んに唱えられているなか、冨増四季は実務家(弁護士)の立場から、現行法の適用で捜査・処罰が可能な「ヘイトクライム規制」の実現可能性を強調している。 
冨増四季氏によれば、ヘイトクライムの類型は以下の通りである。 

類型1.日本の現行法上、既に犯罪行為(「クライム」)となるような威力業務妨害、名誉毀損等に至る行為。
■類型2.日本の現行法上は、犯罪に該当せず捜査・処罰の対象とならない行為。

このような区別は、現行刑法違反の犯罪行為(類型1)に対する、捜査や処罰のあり方の問題をより明確に問うことを目的としている。 

「日本政府内の捜査機関(警察・検察)及び司法機関(裁判所)において、迅速に、公平に、厳しく捜査・処罰が行われているか、日本社会の差別意識に影響され政府対応の甘さをもたらしていないか、と問いかけなければならない。」(引用:冨増氏ブログより)

 

先進諸国のヘイトクライム規制状況

 以下、各国の規制状況の説明は、前田朗著『増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す』(三一書房)を主に参照している。

○日本 
日本は(米国と同様)人種差別撤廃条約第四条を留保し、国内人権機関を整備していない等、ヘイトクライム規制に関して法的整備がなされていない。 
 また「表現の自由」や「罪刑法定主義」を理由に、「差別表現」の外延と内包を具体的に検討することなく規制論がシャットアウトされてきたと言われる。 

―京都朝鮮学校襲撃事件(2009年)時の問題 
 当時、現場にいた警察官らは、会員らの人種差別的・排外主義的街宣活動に対する制止措置を講じなかった。 
 刑事事件で有罪になったがその判決では、人種差別的動機ないし行為態様が量刑要素として考慮されなかった。また、名誉毀損罪ではなく侮辱罪が適用されたため、事実の適示があったかどうかは全く審理の対象とならず、かれらのヘイトスピーチが一般的な悪口として処理された(板垣)。さらに、侮辱罪の客体は朝鮮学校であると認定したが、被告人らの侮辱的言辞によって最も大きな被害を受けたのは、学校の中にいた子どもたちである。子どもたちの人格を深く傷つけたことが明白であるのに、そのこと自体は犯罪とせず、学校の名誉に対する侵害と捉えることは、ヘイトクライムの加害性を矮小化するもの。 

○英国 
1)1936年公共秩序法 
 ファシストのデモ規制を目的とする、最初のヘイトスピーチ規制。ただし、反差別法というよりも治安法の色合いが強い。 
2)1965年人種関係法 
 起訴数が少なく、起訴されても要件の立証が難しかった。また、マイノリティ活動家によるマジョリティ批判にも法規制が適用され、逆にマジョリティの公人によるヘイトスピーチが不起訴というアンバランスさの問題点も指摘された。 
3)1986年公共秩序法 
 「人種的憎悪」とは別に「脅迫的な、口汚いもしくは侮辱的言動により迷惑、不安、苦悩を引き起こすこと」が犯罪として新設。行為者の主観的意図や法務長官の同意も不要で、刑罰は罰金刑のみ。対象者の見聞きできる範囲内との要件がついているので、特定人へのヘイトスピーチに対する規制のひとつと理解しうる。 
4)1998年犯罪と無秩序法 
 民族的マイノリティを脅迫から守るための人種主義的動機による暴力を規制する法律。 
5)2006年人種および宗教的憎悪法 
 テロ対策後の反イスラム主義を規制する。 
*その他、民族別の人口および差別の実態調査を定期的に行い、国会諸機関、国内人権機関等も調査を行い、また、検察庁は毎年ヘイトクライムについての報告書を作成している。 

○カナダ 
 アメリカとは反対に、「表現の自由」の保障にも法律の留保を付している。「多文化的伝統の保護と増進」の精神を反映されることが要求される。 
1)刑法319条による憎悪表現禁止→Keegstra事件(高校教師が授業中に生徒に対し「ユダヤ人差別発言」を繰り返したことから起訴された)。Andrews事件(カナダ国家主義政党の定期刊行物の中で白人至上主義や移民排除の必要性を説いていたことから、私的会話以外の場において特定集団に対する憎悪を故意に促進する意見を伝達していたとして起訴された。) 

2)連邦人権法に基づく憎悪表現の通信の規制→Taylor事件(白人優越主義政党の党首が、ユダヤ人に対する侮辱的な録音メッセージを聞かせる電話サービスを提供したことで、人権審判廷から差別行為と判定され、中止命令を受けた。) 

○ドイツ 
 基本法5条において、表現の自由は、人格的名誉権によって制限を受けるとする。刑法185条の侮辱罪を出発点とするため、集団それ自体の名誉を認めるのではなく、集団構成員各人の名誉に侮辱的評価が及ぶか否かで侮辱罪の成否が検討されている。 

1)アウシュビッツ事件(94年) 
 連邦憲法裁判所は「アウシュビッツの嘘」を主張することがユダヤ系住民に対する侮辱罪となることを認めた。表現の自由と名誉権の保護の比較考量による。 
2)「兵士は殺人者だ」事件(95年) 
 ビラや横断幕の表現が兵士に対する侮辱罪を構成するか否かが問題になった。特定の社会的機能のために結合した人的手段の場合は、「表現は人物の中傷ではなく、彼らによって実現される社会的機能に向けられている」との推定が働くとして、連邦憲法裁判所は、侮辱罪成立を意見の自由の基本権に違反するとの一般論を示した。 

○フランス 
1)人種差別禁止法(72年) 
 人権団体MRAP(反人種主義・人民間有効運動)によって議員立法化されている。71年の人種差別撤廃条約(ICERD)批准を契機とする。 
2)72年法を拡充する83年法、85年法、90年法(人種主義・反ユダヤ主義・ゼノフォビア取締法) 
 結社の公訴権を発動できる団体の種類を「人道に対する罪」「戦争犯罪」「墓所・墓碑等の破壊」等に対して闘う団体等へと拡大。LICRA(反人種主義・反ユダヤ主義国際連盟)などが重要な役割を担う。 

○米国 
―ヘイトクライム統計法(90年) 
 アメリカでは同法制定以前から、各人種擁護・ロビー団体などが独自に情報収集していた。ユダヤ系のADL(反中傷同盟)がユダヤ系に対する偏見に基づく犯罪や、誹謗・中傷の数を毎年、報告している。南部貧困法律センターもKKK(クークラックスクラン)、スキンヘッドなどによる黒人に対する偏見に基づく犯罪の数を年単位でまとめていた。 
 司法省が全土を包括するデータ収集を行い、報告することを法的に定める。ヘイトクライムの頻度や起こっている地域、パターンなどを分析し、ヘイトクライムに対する一般の認識を高めるほか、州の警察当局に適切な対応を可能にさせることで、ヘイトクライムを未然に防止・再発防止することを目的とする。

 

 

戦後補償・歴史認識・歴史修正主義とヘイトクライムの関連

 

 ドイツ刑法130条の民衆煽動罪新設は、ナチスによるユダヤ人迫害に対する反省という、過去の克服という文脈から議論された。ドイツにおいては、ヘイトスピーチ規制は、ユダヤ人に対する補償、歴史に関する教育改革、ナチス犯罪・ホロコーストの実態解明のための司法改革と並ぶ、「三位一体型」「土台整備型」改革の一つである。 
 なお、ナチスによるヘイトスピーチがジェノサイドに帰結したことは国際法廷でも確定した事実である。またルワンダにおけるツチ族虐殺も、フツ族の政府高官と報道によるヘイトスピーチを引き金とするものであったことが国際戦犯法廷での判決で認定されている。 
 日本で1923年9月に起きた、関東大震災時の朝鮮人虐殺も、戒厳令が下されたもとで、官憲がヘイトスピーチ(「朝鮮人が井戸に毒を投げた」など)を積極的に流布したことがジェノサイドにつながった。しかし、関東大震災時の朝鮮人虐殺は、ナチス・ルワンダのジェノサイドとは違って、国内・国際司法で未だ十分に裁かれたことがない。その前提となる本格的な真相究明も日本政府は着手していない。

 

 

 

参考文献
前田朗『増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す』(三一書房) 
前田朗『なぜ、いまヘイト・スピーチなのか ―差別、暴力、脅迫、迫害―』(三一書房) 
櫻庭 聡『ドイツにおける民衆扇動罪と過去の克服―人種差別表現及び「アウシュヴィッツの嘘」の刑事規制』(福村出版) 
岡本雅孝編『日本の民族差別』(明石書店) 
姜徳相『関東大震災・虐殺の記憶 』(青丘文化社)  など 
師岡康子『ヘイト・スピーチとは何か』(岩波新書)